私の役割は会社をアップデートしていくこと
─「人と絆を大切に、顧客の困りごとを解決する」、「期待を超えなければ、仕事ではない」というのが御社のビジネスモデルの根幹とのことですが、人と絆というのは具体的にどのようなことを指しているのでしょうか?
鴻池社長 6年ほど前、社員100人弱にインタビューして私たちのブランドを作りました。その中でお客様のことをすごく考えている、なんとしてもやりとげるという声が多く「期待を超えなければ、仕事ではない」というのはそれを集約し明文化したものです。上からこうしなさいというのではなく社員がすでに無意識にやっていたことを言語化し、私たちの約束として社会に発表しました。
当社は大阪からスタートし物流や淀川治水工事、モノを運ぶだけではなく運んだ先のお客さまの工場の業務も手伝ってほしいという声から請負業が発展。儲かる仕事に手を広げるというより、一貫して「お客さまの困りごと」に真摯に応えてきた結果、自然と事業が拡大していったという背景があります。いわば、人と仕事によってできた絆が140年以上続くビジネスモデルを作り上げてきました。
歴史の中で人は常に入れ替わっていますが、変わらないのは「お客さまの困りごと」をなんとかしたいという想いと、人と絆を大切にするDNA。これは研修で教えることではなく、現場で自然と身につくものです。
社員がお客さま先で請負業務をする際、当社の社員であるという意識を常に持つ必要はないと私は思います。請負先の社員になり切るぐらい仕事に向き合ってもらったほうが、パートナーとしての関係性が強まるからです。鴻池運輸としてのDNAを持ちながら、お客さまの現場で活躍し真剣に課題解決に取り組むのが当社社員のあり方です。
─鴻池運輸を率いる社長として、ご自身の役割をどのように捉えておられますか。
鴻池社長 私の社長としての役割は、会社をアップデートしていくことです。会社は時代に合わせて変えていく所と、変えてはならない所がある。そのためにも、経営者として社内外の意見を聞くことを重視しています。
社内の意見を聞くために、数年前から1日約5人を目途に20分ずつ面談を行っています。対象は130人ほど、各本部長とは1カ月に1度面談します。面談で大切にしているのは、フラットな立場で接すること。私が知らないことを教えてほしいし、こちらとしても伝えたいことがある。
お互い情報共有して相互理解することが目的です。
社外の情報をキャッチするため、異業種の経営者にも会います。私は稲森和夫氏の盛和塾の出身でその時の繋がりもあり、忌憚ない意見やアドバイスから刺激を受けています。
─鴻池運輸の従業員数は約2万4000人(連結)、拠点は200に上るとお聞きしました。グループ全体を束ねるのは大変だと思いますが、組織運営はどのようにされていますか。
鴻池社長 仰る通り拠点は200に上り、事業所ごとの収支報告書で業績を積み上げていく方針です。事業所ごとに必要な権限を与えており、責任の範囲で自由な発想をもちながらやってもらっています。製鉄所のベルトコンベア点検にドローンを使うといった現場発の提案も成功しており、社員が現場で挑戦するやりがいや達成感は得やすいと感じています。
しかし、ただ自由なわけではなく利益を追求していく必要がある。私は、鴻池運輸は人が良い社員が多いように感じています。社員には、提供した業務の対価をきちんともらい収益化することを伝えています。
─長期目標である2030年ビジョンについてお聞かせください。
鴻池社長 定量目標としては、2030年に営業利益250億円を計画しています。具体的な施策としては、戦略委員会を立ち上げ、他本部・事業所の垣根を越えての社内連携を強化しました。人・技術・倉庫などの施設を、全体最適を考えて使えるように基盤を整えています。 営業利益250億円は事業所の総意で積み上げた数字でもあります。事務所ごとに主体的に動いてもらっている部分もありますが、私の社長としての役割は舵取りです。5年、10年、さらにその先を見据えて今何をすべきか。トップダウンで全体の方向性を示す必要がある。
当社は2030年ビジョンとして“技術で、人が、高みを目指す”ことを掲げています。人が主体となって技術を使うことを指し、高みとは、一つに安心安全な現場の実現があります。また当社の職人に帰属している暗黙知を誰でも使える共通資産にしていくこと、次世代事業基盤を構築していくという三つに取り組んでいく所存です。他にも、労働人口減少対応のための技術革新や、ドライバーの時間外労働の上限が規制される物流の2024年問題にも尽力していきます。
─鴻池運輸を取り巻いている情勢や、今後の事業展開についてお聞かせください。
鴻池社長 情勢については、世界的に景気は後退していると個人的に感じています。世界中で物価、エネルギー価格の上昇で貧富の2極化、中間層の分断。そして国内人口減。
これから厳しい時代が来ることを覚悟しなくてはなりません。一方で、世界にはビジネスチャンスが結構あると感じています。
現在、ドイツ政府が提唱しているインダストリー4・0(AIやIoTを使った技術革新)を研究しています。専務の鴻池が1年程前から数名の社員とフランクフルトに駐在。最先端の生産現場に足を運び、データを使った業務効率向上など次世代の事業基盤づくりの糸口をつかもうとしています。
また、主要なビジネスパートナーが海外を見ていることも大きい。お客さまの海外現地での工場新設などは我々にとってもビジネスチャンスに繋がります。海外比率は現在約15%ですが、2030年、さらに将来的に海外比率を拡大させる余地は大いにあると考えます。国内で蓄積したノウハウを海外で活用し、更なる発展の契機を掴んでいきます。