新たな事業領域に踏み出す いちご 【2337・プライム市場】

心築(しんちく)事業で新たな不動産投資商品を提供 不動産ST参入し販売チャネルを拡大

いちごグループのコアビジネスは、マンション、商業施設、オフィスビル、ホテル、物流倉庫など、好立地の中規模不動産を取得し、ハード・ソフト両面から価値向上を図る「心築(しんちく)」事業だ。売上高全体でも同事業は64%を占めている。同社は他にも「アセットマネジメント」、クリーンエネルギー」事業を展開しており、売上高構成比はそれぞれ11%、25%。同社では17 年に社内ベンチャーとしてBtoCのサービスを展開する、いちごオーナーズ(以下オーナーズ)を創業。「心築」事業のさらなる拡大を図っている。同社の設立経緯や事業内容、次なる成長ドライバーとして2022年に参入した不動産ST(セキュリティ・トークン)について、纐纈雅彦社長に話を聞いた。
いちご-纐纈 雅彦

纐纈 雅彦(こうけつ・まさひこ)

いちごオーナーズ社長

1965年生まれ。岐阜県出身。1987年大学卒業後、デベロッパーにおいて複合商業ビル開発や大型住宅地造成に携わる。またコンサルタントとして商品・流通チャネル企画やブランディング、大型SC等の商業施設を多数プロデュース。建築・不動産・マーケティングに精通する一級建築士。11年、創業メンバーとしていちご地所に入社。15年、いちご地所社長に就任。同時に社内ベンチャーの準備室として不動産パートナー戦略室を立ち上げる。17年、同戦略室をいちごオーナーズとして設立し、代表取締役社長に就任(現任)。

都心・優良地にレジデンス「PASEO」展開BtoCビジネスを確立
――いちごオーナーズの設立経緯を聞かせてください。

纐纈 当グループの事業はBtoBビジネスが中心ですが、リーマンショック時においてマーケットが停滞した際も個人のお客様は継続して購入意欲が高かったことから、グループ内にBtoCビジネスを確立することが急務となっていました。11年創業のいちご地所はそのための戦略会社でしたが、途中から不動産再生事業(現在の「心築」事業)に舵を切りましたので、当初のミッションは一旦据え置きになっていました。15年に私がいちご地所の代表に就任した際、改めてBtoC確立の特別チームとして不動産パートナー戦略室を編成しました。社内にはそのノウハウがなかったため、銀行や証券会社、税理士事務所とパートナーシップを組んで準備を進め、17年に設立したのがいちごオーナーズです。

――BtoCにフォーカスを当てたということですが、ビジネスモデルは。
纐纈 不動産オーナーのための会社であり、お客様のニーズに合わせて当社がマーケットイン型で不動産を調達・提供しています。Cの意味は広く、個人投資家、事業法人、その経営者、経営者の資産管理会社など、資産を保有し投資対象を探している方々が当社の顧客になります。提供後にお客様に代わり運用や価値向上を行う「オーナー代行」サービスも用意しています。創業当初は「不動産のセレクトショップ」をコンセプトに商業ビルやオフィスなども扱っていましたが、近年は小売業でいう「SPA」をモデルに、より上流の企画段階から携わり、レジデンスブランド「PASEO」シリーズを展開しています。

――マンションの企画はどのように行っているのですか。
纐纈 デベロッパーが土地を取得する前段階で、当社にボリュームプランを持ってご相談にみえるケースが増えています。当社では7年間で23区内に200棟以上の物件を仕入・商品創造・販売しており、マーケティングデータが集積されていますので、物件の立地にあった間取りや外観・エントランス、内装設備などのノウハウをデベロッパーに提供できます。建設はデベロッパーにお任せし、当グループのエンジニアリング専門部隊が、中長期保有を前提としたクオリティの高いマンションの品質管理を行っています。当社は製造ラインを持たないファブレス経営というか、「OEM」に近いイメージで不動産投資商品を創造しています。

――1棟当たりの単価は?
纐纈 高層建築で20~30億円超の物件もありますが、中層建築で10億円程のコンパクトなレジデンスが主流です。一棟売りがメインで、顧客は金融機関系や大手の不動産仲介会社、税理士などの士業から紹介していただいた富裕層が中心。CとBの割合は5:5くらいで、機関投資家にはポートフォリオを形成して複数棟販売も行なっています。いずれも中長期保有が前提です。リーシングは社内にアセットマネージャーがおり、関係の深い外部PM会社を通して行なっています。物件取得から繁忙期であれば3ヶ月程で満室になりますが、その後も安定稼働を確認してから販売しています。

小口化商品を開発大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)で取引開始
――近年、御社では不動産の小口化も始めています。

纐纈 数千万円~数億円程の投資をご所望されるお客様も多くいらっしゃるのですが、そ
の価格帯のレジデンスを扱うゼネコンは比較的小規模で、アフター保証に不安がありまし
た。そこで辿り着いたのが不動産の小口化でした。富裕層向けの「不動産特定共同事業」は、対象不動産に対しお客様が金銭を出資し、出資持分に応じて不動産を保有・配当を受領して
いただく仕組みです。また小口化にはもう一つ手法があり、より幅広い層に向けた「不動産ST」は近年の販売チャネル拡大に大きく貢献しています。これを当社では「デジタル不動産投資」と呼んでいます。

――不動産STとは何でしょうか
纐纈 STとは、「セキュリティ・トークン」の略です。「セキュリティ」は「有価証券」、「トークン」は「デジタルデータ」のこと。ブロックチェーン技術をもとにデジタル化された金融商品「デジタル証券」で、不動産STは株式と同じように証券化した不動産を色々な方で持ち合います。コロナ前に欧米から始まった手法で、日本では20年の金融商品取引法改正から解禁になりました。当社では、ケネディクス、トーセイ、三井物産デジタル・アセットマネジメントに続き国内4番目に不動産STに参入しています。これまで大型不動産の保有にはまとまった資金が必要でしたが、当社の不動産STは一口50万円、二口以上から購入可能ですので、サラリーマンやOLの方にも手が届く価格帯です。

――これまでの富裕層・準富裕層だけではなく、幅広くなった。
纐纈 オールターゲットに商品を届けられるようになったということが一番の特徴ですね。実際、不動産ST購入者の過半は30~50代の現役世代です。J‒REITとの違いは、リートは複数不動産をまとめてポートフォリオを形成するのに対し、不動産STは対象不動産が少数で「この不動産に投資する」というのが明確なことです。だからこそ、全国から投資していただくために、誰でもわかるような好立地の優良物件を用意しています。

――不動産STの販売実績を教えてください。
纐纈 昨年までに3回の供給をしています。資産規模ベースでは、それぞれ1回目が50
億円、2回目が70億円、3回目が90億円程と合計で200億円を超える規模となっています。今後は年2~3回、それぞれの規模感は100億円目途で考えています。J‒REITのマーケットは20兆円規模まで拡大していますので、ST市場も同規模まで成長し、市場価値が高まることを期待しています。昨年12月に、「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」に、新たにセキュリティ・トークンの私設取引所「START」が開設されました。STを購入したお客様が当社を介さないで売買できる「二次流通」が始まりましたので、出口の流動性が上がり、マーケットも拡大していくと考えられます。世界では不動産に限らず、未上場株や船舶、太陽光発電、飛行機など、証券化されていないアセットがSTにより流動化している流れがあります。当グループにおいても、現在は当社が扱うレジデンスのみですが、中長期的にはホテルや物流倉庫などでのST参入の可能性もあると思います。

ログイン 会員登録 SEARCH