圧力計国内トップシェア 長野計器 【7715・プライム市場】

圧力計測で、あらゆるものづくり産業に貢献
次世代を見据え、液体水素関連の開発を推進

長野計器は、圧力計・圧力センサといった圧力計測製品のトップメーカーである。圧力計の国内シェアは60%、世界でもグループで20%と、上位のシェアを占める。圧力計測製品は半導体、FA・産業機械、食品、医薬品、自動車や電車など、あらゆるものづくりでの安全・安心を守るために必要不可欠な存在だ。近年は「計測専業メーカーの使命」として、水素などの新エネルギーの社会実装に向け、水素関連各社と協働で開発を推進している。
長野計器-佐藤 正継

佐藤 正継(さとう まさつぐ)

社長

1954年5月生まれ。73年、長野計器入社。工場部門にて購買を約30年にわたり経験。2008年事業本部事業管理部長、09年執行役員製造本部丸子電子機器工場長、14年取締役事業本部製造本部担当などを経て、18年代表取締役社長就任(現任)。

世界最大規模の製品群と技術力が強み
半導体、自動車など顧客は多様

長野計器は、創業から120年超の圧力計測専業メーカーだ。圧力計のシェアは国内首位で、世界でも上位。乳幼児の寝息ほどの微圧力から、水で鉄板を切断するほどの超高圧まで、全てをカバーする製品群の幅広さは、世界でも同社のみである。

2024年3月期は、売上高が679億3500万円、営業利益は71億5000万円となり、売上高以下全ての項目で過去最高を更新。25年第3四半期時点の売上高は506億600万円、営業利益は55億6700万円となった。売上構成比はセグメント別に、圧力計が52・3%、圧力センサが31・6%、計測制御機器5・5%、ダイカスト7・7%、その他2・9%で構成されている(下図参照)。

圧力計も圧力センサも、ともに気体や液体などの圧力を測る装置だが、違いは計測結果の出力方法にある。圧力計は、圧力が直接計器の目盛りを動かし、その数値を人が目視する前提で作られている。例えば工場やプラントの配管や機械設備、水道やガスの供給施設など、計測したい場所に設置すればすぐに使用ができるアナログ機器である分、機械式時計のように精密な部品の組み合わせで性能が左右されるのが特徴だ。

一方、圧力センサは動力源に電気や電池を必要とし、加えられた力をデジタル信号にして出力する。代表的なものとしては、建設機械の油圧計測、自動車のブレーキや空調設備、半導体工場でのクリーンルームの管理、医療機器などが挙げられる。

同社では1970年代にメカ(機械工学)からメカトロ(機械工学と電子工学)へ転向し、80年に初めて圧力センサを製造。89年には圧力センサの工場が稼働し、現在では、圧力計、圧力センサの2本柱が売上の大半を占めている。

「お客様の要望に応えて開発してきた何万点という幅広い製品群に加え、センサのコアから完成品まで全てを自社工場で内製している技術力が当社の強みです。ものづくりの現場では、『はかる』ことは必要不可欠です。計測がなければ制御もできませんので、デジタル化が進む現在では尚更、計測装置はあって当たり前の存在となっています」(佐藤正継社長)

同社の顧客は、自動車、建設・土木・産業車両、FA・産業機械、建築・空調冷凍機、半導体産業、食品・薬品・化粧品、船舶・航空・鉄道、工業計器・プロセス計装、医療・福祉、高圧水素・ガス・新エネルギーなど。あらゆる産業が対象となっている。

圧力センサの好調が業績をけん引
営業利益率は3%から3年で10%強へ

同社では2022年3月期より、3期連続で過去最高業績を更新している。企業の安定性を示すBPS(1株当たり純資産)は15年3月期の991・7円から24年3月期には2081・6円と約2倍に、収益力と成長性を表すEPS(1株当たり純利益)は同71・4円から283・2円へと、9年間で4倍に上昇した。

業績好調を牽引しているのが、圧力センサの好調と、コロナ禍以降の収益力改善である。圧力センサの営業利益率は約20%で、同社における高収益事業である。高機能な製品へ搭載されるため、センサの単価自体も高いのが特徴だ。社会のIoT化に合わせて需要が拡大しており、同事業の売上高構成比は全体の3割強まで伸長。同社の営業利益率向上に貢献している。

また同社ではコロナ禍以降、収益力改善に全社を挙げて取り組んできた。

「社内全体の意識が『収益性向上』に向き、業務の改善、生産ラインの自動化、それによる原価の改善、赤字部門の縮小など、会社全体で改革に取り組みました。また22年度に実施した製品価格改定の効果もあり、21年3月期に3・2%だった営業利益率は、24年には10・5%まで向上しています」(同氏)

数年前から液体水素にも着手
社会実装に向けた開発を推進

3カ年の第2次中期経営計画では、最終年度の26年3月期に売上高753億円、営業利益97億円、営業利益率12・9%を目指している。計画の2年目である今期は、半導体業界向けの需要が在庫調整局面を迎えている。第1・2四半期は、コロナ禍以降の受注残によって売上が好調に推移した。一方、下期に見込んでいた半導体市場の回復は来期にずれ込む可能性があると見ている。

「26年3月期の売上高もベースは横這い程度と考えています。その分、来期は地道に実績を積み上げながら、次の27年3月期に向けて準備をする年にしていく計画です。そのひとつとして、丸子電子機器工場でのセンサ加工の生産ライン増強を進めており、25年夏からは生産能力が1・5倍になります。当社では1970年代後半に圧力計で高収益を出していた時代があったのですが、その際に次の10年を見据えた計画を立てなかったために、次の10年で良いスタートが切れなかったことがありました。圧力センサの開発以降は、インフラ整備をはじめとした『次のステップへの投資』を重視しています」(同氏)


▲生産能力増強を進める丸子電子機器工場

未来を見据えて進めている案件のひとつが、水素やアンモニアといった新エネルギー関連の開発である。2020年からはトヨタ自動車の燃料電池自動車「第2世代MIARI」に同社の圧力センサが搭載され、続いて新型クラウンセダンFCEV(燃料電池車)モデルでも採用。車両性能にとって重要となる高圧水素タンク及びスタック(発電装置)への水素圧力の監視機能を担っている。また水素ステーションや水素製造設備専用の圧力計測装置も取り揃える。

同社では数年前より、液化水素の実証サンプルでの計測に水素関連企業と協働して取り組んできた。水素はマイナス253度で液化するため、極低温での貯蔵・運搬にはこれまでにない高度な技術が求められる。同社では24年に、業界で初めて液体水素の圧力計測(極低温計測)に成功した。

「水素を『作る』『保管する』『運搬する』『使用する』全ての工程で、圧力の計測が必要となります。今の時点で収益に繋がらなくても、リソースをかけて取り組んでいく。それが計測専業メーカーとして、当社が社会に果たすべき『使命』と考えています」(同氏)

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