特注品に強みを持つバルブメーカー オーケーエム 【6229・スタンダード市場】

「流体制御」の独創的技術で
社会イノベーションを支え続ける

2025年に創業123年を迎えるオーケーエム(6229)は、滋賀県に本社を構えるバルブメーカーだ。バルブ産業は滋賀県最大規模の地場産業で、県内のブランドメーカーは約30社、関連事業は約80社を数える。その中でも後発企業としてバルブ製造を始めた同社は、その独創的な技術を磨き上げ、数量重視の汎用品ではなく、高温から極低温の温度帯など、技術開発力を要求される特注品を得意としてきた。現在は脱炭素化のための液化水素運搬船用バルブの開発などに挑んでおり、社会イノベーションを支え続けている。
オーケーエム-奥村 晋一

奥村 晋一(おくむら しんいち)

社長

1966年生まれ、滋賀県出身。青山学院大学大学院物理学専攻修士課程修了。91年横河電機入社、92年横河アナリティカルシステムズ入社。97年オーケーエムに入社。2006年取締役に就任。生産統括本部長、国際統括本部長、管理統括本部長、副社長などを経て、21年6月代表取締役社長執行役員に就任(現任)。

鍛冶屋からバルブメーカーへ
顧客の困りごとに技術力で対応

オーケーエムは、造船、重機、半導体、食品、医薬、超高層ビルなど、あらゆる業界の大手優良顧客基盤を確立するバルブメーカーだ。

創業は、1902年。原木から木材を切り出すための「前挽き鋸」を製造する鍛冶屋として誕生した。終戦後は山仕事用工具や農具の機械化、輸入木材の拡大により家業は衰退。創業3代目社長の奥村清一氏は、当時既に滋賀県の地場産業になっていたバルブ製造に可能性を見出し、他社での単身修行を経て、52年に同社をバルブメーカーへと転身させた。

「後発のため下請けからのスタートでしたが、技術を磨き、数年後には製紙工程でスラリー(ドロドロな素材)を制御する紙パルプ用バルブを開発し、国内市場をほぼ独占するようになります。以降も『お客様の困りごとを解決する』製品開発に尽力してきた結果、現在では『特殊品に強い会社』として技術力を評価していただくようになりました」(奥村晋一社長)


▲高温流体試験設備

▲低温流体試験

船舶排ガス用シェア世界40%
独自の特殊試験装置が開発の肝

現在では、船舶排ガス用バルブで世界トップシェアを誇り、経済産業省が選出する「2020年版 グローバルニッチトップ企業100選」にも名を連ねている。

「13年頃に国内大手造船メーカーから、『国際海事機関(IMO)による排ガス規制強化が迫る中、エンジン性能の向上だけでは基準に達さず、開発が難航している』と相談を受けました。船舶の排ガスは500度の高温で粘着性のある煤を含むため、高温かつ腐食性に耐えうるバルブを作りたいという依頼でした」(同氏)

プロジェクトは、国内大手造船メーカーと、ドイツのエンジンメーカーMAN社との協働開発になり、国内外から多くのエンジニアが滋賀県の日野工場を何度も訪れた。同社の技術が国内外で評価を受ける背景の1つに、顧客の使用条件を再現する試験プラントがある。

「500度超の『高温流体試験』が可能な特殊施設を自前で持つバルブメーカーは世界中を見ても他にありませんでした。当社では『ないなら作る』という精神のもと、装置を独自開発し、3500時間の実船搭載試験を行いました」(同氏)

このようにして開発された船舶排ガス用バルブは、16年に世界で初めてMAN社の認証を取得。以降、各国のエンジンメーカーから声が掛かるようになった。


▲船舶排ガス用バルブ

水素やLNGなど脱炭素化対応
協働で社会イノベーション推進

同社の今後を語る上で、欠かせないのが「協働開発」である。脱炭素化が世界的に進んでいるが、同社でも産官学連携による社会イノベーション推進に取り組んでいる。

進行中のプロジェクトの1つが、液化水素運搬船に用いるバルブの開発だ。液化水素はマイナス253度という極低温であり、水素脆性(金属に水素が吸収されると靭性が低下し脆くなる現象)への対応も必要となる。同社では素材メーカーと協働で耐久力に優れたバルブを開発中。今後は顧客のエネルギー事業会社とともに検証を進めていく。

「バルブは他の機器と連携・連動することで初めて機能を果たし、課題を解決します。製品開発も同様で、これまでの技術領域を超える難易度の高いプロジェクトが次々と立ち上がっていますが、他社や各機関と協働してこそ、効率的に高付加価値の製品を生み出せるのです。水素だけではなく、アンモニアやLNG(液化天然ガス)など、次世代燃料の大量輸送・供給へのソリューションを、我々の領域から支えていきます」(同氏)


▲滋賀県野洲市にある本社・研究開発センター

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