コロナ後の働き方改革とともに
変化したオフィス需要へ対応
━━「セットアップオフィス」を始めた背景は。
細野 コロナ禍によって全国的にリモートワークが増え、「オフィス不要論」が出た時期がありました。当社グループではオフィスを100棟以上保有していますので、オフィス需要の有無は事業の存続に関わります。そのため当社では「オフィスの定義」や「本当に不要なのか」「今後のオフィスに求められるもの」を、徹底的に議論してきました。
━━コロナ以降、オンラインミーティングやリモートワークなども増え、社会構造やワークスタイル自体が大きく変わりました。
細野 以前は島型に席を配置したオフィスが一般的でしたが、「会社の戦略を落とし込んだ生産性の高い空間」や、「採用・定着に繋がるような、快適性やグレード感を実感できる空間」が、オフィスに求められるようになったのです。そこで当社に提供できることは何かと考え、辿り着いたのが「セットアップオフィス」でした。
━━「セットアップオフィス」の大きな特徴は、内装工事済みに加えて家具付きという点です。
細野 当社では1フロア50坪程度の中小型ビルで、30名程度の企業やスタートアップ企業を対象にこの「セットアップオフィス」を提供しています。多くのスタートアップ企業は、立ち上げ当初はシェアオフィスを活用していますが、規模が大きくなるにつれて自分たちだけの拠点を作りたくなってくる。ただ通常のオフィスでは、入居前に造作工事等をする必要がありますので、高額のコストがかかります。
━━工事期間と家具を入れるまでに2~3ヶ月掛かり、その分の賃料も発生します。
細野 その上、スタートアップ企業は総務部門が確立していないことも多いので、工事や家具の発注を社長がやるしかありません。
━━余計なコストや時間が、企業の成長阻害要因になる。
細野 一方で「セットアップオフィス」は家賃が通常の1・5倍など割高ですが、スタートアップが好むテイストのデザインや、近年のワークスタイルに対応した空間が既に出来上がっており、契約後すぐに入居し事業開始が可能です。また通常、オフィスの入居には10~12ヶ月の敷金が必要ですが、当社では敷金保証サービスによって、月々の家賃に保証料を上乗せするかわりに入居時の保証料が不要になる仕組みを提供しています。
━━契約期間は。
細野 原則2年ですので、企業の規模拡大によるオフィス移転ニーズにも対応しています。コスト・契約ともに自由度の高いセットアップオフィスへの需要は高まっており、工事中や出来上がったばかりの物件を除くと、現在はほぼ100%の稼働率を実現しています。
東京・福岡・名古屋・札幌に展開
賃料80%アップの実績も
━━現在の運営規模は。
細野 11棟、25フロアの「セットアップオフィス」を東京、福岡、名古屋、札幌の4都市で運営しています。また大阪ではこの春から、オフィスビルを一棟丸ごとセットアップオフィスに改装する工事が始まります。これは当社でも初めての試みです。
━━不動産投資の観点から見た投資効果はどれくらいですか。
細野 「セットアップオフィス」には、オーナー側の造作工事や家具納入などのイニシャルコストを大幅に上回る投資効率があります。当社のセットアップオフィスの賃料は、物件取得時よりも平均150%の上昇を目指しており、千代田区神田の物件では80%の上昇を実現しました。
━━100%近い入居率を実現するため、リーシングはどのように行っていますか。
細野 通常のオフィス同様、当社とお付き合いのある不動産仲介会社を通じて行っています。近年ではセットアップオフィス専門の業者も誕生しています。
━━ニーズの拡大とともに競合も増えてくると思われます。今後の展開は。
細野 他社に先駆けて早期のリースアップ・高稼働を生み出すためのノウハウを蓄積してきました。そのため今後も綿密なマーケティング戦略をもとに物件数を拡大していきます。
━━メインエリアは東京ですか。
細野 東京だけでなく、引き続き札幌や福岡でもチャレンジしていきたい。またこれまで「セットアップオフィス」は1フロア100坪までが上限とされてきました。ある程度の規模の企業では、造作工事などを自社で行う体力があるためです。今後は100坪以上でもセットアップオフィスが成立するかなど、試したいことはたくさんあります。
━━オフィスマーケット自体を変化させる可能性がある。
細野 外部環境の変化に伴い、働き方も日々変化する中、セットアップオフィスは新しいオフィスの在り方の選択肢の一つです。私たちは利用者のニーズからさまざまな可能性を探り、例えば、テナントコミュニティを作ることを目的とした「Villageシリーズ」や、ラウンジなどの共用部を充実させる取り組みなどにもチャレンジしています。地域の特性を取り入れたオフィス、革新的で心身の健康に配慮したオフィスをはじめ、お台場のオフィスビルでは空と海に囲まれた開放的なワークスタイルを提案しました。
日本のオフィスの賃貸借契約の考え方やオフィスの在り方が激変し、10年・20年後にはセットアップオフィスや新たな形のオフィスが一般的になっている未来があるかもしれません。
港区台場「トレードピアお台場」に
海と空を一望する開放的な空間
2024年11月、お台場に新たなセットアップオフィスがオープンした。
「トレードピアお台場」はゆりかもめ・お台場海浜公園駅徒歩3分、S・RC造地上23階地下2階建て、延床面積約7万7000㎡の大規模オフィスビルだ。
セットアップオフィスは専有面積約50坪の区画とし、コミュニケーションが広がるオープンスペース、会議室、個室ブース、ミーティング用ソファ席などを兼ね備えた。お台場の「Azure」を感じる空間というコンセプトのもと、都心とは思えない空と海の眺望を活かした空間となっている。臨海副都心は地盤高が東京平均海面から5.37m以上高く「津波や地震に強いエリア」であり、津波や高潮、大地震の際の建物倒壊や火災危険度、液状化現象にも高い耐性を有することが証明されている。
同ビルでは複合的に、オフィスビルの価値向上に取り組んでおり、ビルのテナント約500人が参加する避難訓練や、テナント同士の交流イベント「Meet The Neighbors!」を定期的に開催するなど、交流の機会提供やつながりの強化が新たな付加価値を生んでいる。