社名(商号)変更は株価上昇のシグナルだ!─長年使用してきた社名を変えることは、当然ためらいがある上、手間と費用もかかる。それでも変更に踏み切るのは、様々な理由があるからだ。グループ統合や再編、そしてビジネスモデルの変更など、企業がまさに大きく生まれ変わろうとしているタイミングに、社名変更が行われる。株価も大きく見直されるキッカケとなることも多い。本稿では、昨年に社名変更を実施した上場企業の中から注目銘柄を取り上げると共に、今後変更を予定している企業を一部紹介する。「変化はチャンス」と捉え、注目してみたい。
社名変更に株価反応
出足好調な7銘柄、うち3銘柄は持株会社体制に
TOPPANは脱印刷でイメージ刷新
昭和電工がレゾナックHDへ
2023年の社名(商号)変更後、すでに大きく株価水準を高めている企業は多い。以下の7社はその代表格だ。
凸版印刷は、昨年10月に持株会社体制への移行によりTOPPANホールディングス(7911)に改称。23年1月末で2087円だった株価は、社名変更した昨年10月2日の終値で3494円、さらに上昇し直近株価は4113円と、1年前の約2倍に水準を上げている(1月19日時点、以下同)。
同社が社名を変更するのは1900年(明治33年)の創業以来初めてだ。新社名は旧称を継承しつつ、グローバル対応に向けて英字表記となった。同社の事業ポートフォリオは、DX支援やBPO関連の「情報・コミュニケーション」が約5割、パッケージや建装材の「生活・産業」が約3割、半導体・ディスプレイ関連の「エレクトロニクス」が約2割。印刷主体のビジネスモデルから既に変化しているため、今回社名から「印刷」が外れた。 今後は凸版印刷の主要部門を継承する「TOPPAN」、グループのDX事業戦略を推進する「TOPPANデジタル」、BPO事業やセキュア事業を担う「TOPPANエッジ」の事業会社3社を中心にさらに変革を推めていく。24年3月期は売上・営業利益微増、経常減益予想。半導体、DX関連事業の成長が期待される。
大手化学メーカーの昭和電工は、レゾナック・ホールディングス(4004)に改称。株価は社名変更した昨年1月の2009円から3000円となり、この1年で1・5倍に上昇している。
2020年10月に日立グループ御三家の日立化成を、当時の昭和電工の売上高(19年12月期9065億円)を上回る買収額で子会社化した。その後新型コロナウイルス関連の影響や統合関連費用により赤字に転落したが、経営体制を一本化。昨年1月に両社統合によりホールディングス化した。
旧昭和電工は石油化学、黒鉛電極、機能性材料など、旧日立化成は半導体材料や自動車材料などを強みに、両社のシナジーで新規事業を創出していく。伝統的総合化学メーカーから「機能性化学メーカー」への移行を目指す。
新生三井E&Sは前期から復配
SWCCは「電線」事業から飛躍
船舶エンジンを主力とする三井グループの重工業メーカー、三井E&S(7003・旧三井E&Sホールディングス)は成長事業に集中するため、持株会社体制を解消し社名からホールディングスを外した。昨年1月末時点で402円だった株価は、社名変更した4月3日の終値で427円、直近は756円まで8割近くも上昇している。
同社は1917年に旧三井物産造船部として創業し、37年に分離独立。化学プラントや港湾でコンテナの積み下ろしをするクレーンの建設など業容を拡大してきた。2018年度に持株会社体制へ移行したが、インドネシアの火力発電所工事で累計1500億円を超える損失を計上した。以降事業の選択と集中で造船事業を大幅に縮小。今回の再編では、旧三井E&Sマシナリーが手掛けてきた舶用エンジンと港湾クレーンの2事業を中心に再出発を図る。過去5期にわたり無配だったが、19年度から始めたグループ事業再生計画を完遂したため前期から復配している。24年3月期は6・7%増収(2800億円)、28%営業増益(120億円)、28・2%経常減益(90億円)を予想する。
建設機械、イベント商材など総合レンタル業の西尾レントオールは、ニシオホールディングス(9699)に改称。3000円台前後で推移していた株価は、昨年4月の社名変更以降右肩上がりになり、4000円台にまで値上がりしてきた。
同社は国内外で投資やM&Aにより事業領域を拡大してきたが、グループ内の重複投資や効率性の面で課題があった。そのため持株会社化による、グループ全体で足並みをそろえての基盤強化、成長加速が狙いだ。24年9月期は5%増収(1950億円)、2・2%営業増益(167億円)予想。好調要因は、各地の物流倉庫や工場等の新設工事、都市部の再開発工事、交通インフラの補修・メンテナンス工事の継続など。大阪万博関連工事の本格化やイベント数の回復もあり4期連続増収増益を見込む。
電線・ケーブル大手の昭和電線ホールディングスはSWCC(5805)に改称。社名変更前は1800円台で推移していた株価は、昨年11月に水準を上げ、直近は2863円まで上昇してきた。
グループ経営体制を再編し、既存の「電線」中心の事業から飛躍を図る。同社の戦略製品は、主に電力送配電設備や発電所などで使われる高電圧電力ケーブル用コネクタSICONEXⓇ(サイコネックス)やxEV車向け高機能製品など。今後は基盤事業をベースに、26年度までに200億円を投じて新市場・新領域への成長拡大を推進する。
24年3月期は2・8%増収(2150億円)、9・8%営業増益(115億円)予想。中期経営計画では27年3月期までに連結売上高2150億円、営業利益150億円を目標に掲げる。今期予想が実現すれば売上高は目標を前倒しで達成する。配当政策は26年度に配当性向約35%、ROE10%以上、ROIC(投下資本利益率)10%以上を主要KPIとしている。
創業時社名に再度変更のジェイドG
DDはグループ間の相互作用を狙う
靴と衣料品の通販サイト「LOCONDO.jp」などを運営するロコンドは、ジェイドグループ(3558)に改称。株価は昨年6月の社名変更に先行して上昇。年初の株価1017円が、社名変更時は1584円まで上がっていた。だがその後も上昇傾向は続き、現在は1883円だ。
2010年設立の同社は、ITと物流の総合支援や多モール戦略などで事業を拡大。ロコンドの冠を持たないサービスやブランド群が増加したため、創業時の社名に改めた。22年には伊藤忠商事と合併会社を設立し、米スポーツブランド「Reebok(リーボック)」の国内販売権と製品開発ライセンスを取得。24年2月期は33・8%増収(140億円)、76・6%営業増益(17億5000万円)予想。今後もEC企業やD2CブランドのM&Aにより、25年2月期の取扱高を400億円に増加する計画。 外食のDDホールディングスはDDグループ(3073)に改称。外食産業はコロナ禍以降の回復が本格化している。同社では24年2月期の通期業績を期初予想から2度上方修正した。12・9%増収(364億円)、6・3倍営業増益(29億円)、2・7倍最終増益(23億円)を見込む。同社も社名変更に先駆けて株価が上昇しており、昨年年初の790円が昨年6月の社名変更時には1248円まで上昇。さらにその後も上がって現在は1522円と、昨年1月の水準に比べて、2倍近くに倍増している。
超大型株には商号変更の影響わずか
2023年に社名変更した上場企業は約60社。その中で知名度の高い大手企業では3社ある。
まずモーター製造大手の日本電産がニデック(6594)に改称。創業以来、日本を代表するグローバル企業になることを見据えて社名に「日本」を含めていたが、昨年創業50周年を機に海外の子会社やブランド名として先行使用していた「NIDEC(ニデック)」に統一した。グループ企業を世界に約300社持つグローバルグループとして一体経営を強化する方針だ。
続いてエヌ・ティ・ティ・データは、持株会社体制への移行によりNTTデータグループ(9613)に改称。国内事業会社のNTTデータと、海外事業を統括するNTTDATA,Inc.の2社で国内・海外事業のすみわけをしグローバル経営体制にシフトした。
Zホールディングス(ZHD)は傘下のヤフーとLINEと合併し、LINEヤフー(4689)に改称。認知度の高いブランド名を社名に冠した。合併と同時にID連携を開始したほか、大規模な固定費削減を行うなど当面は構造改革に注力する意向。3社ともに社名変更を機に、さらなる飛躍を目指す決意が示されている。ただ、いずれも時価総額数兆円クラスの超大型株とあって、株価の反応は今ひとつだ。
ニデックの株価は、23年1月末に7170円、社名変更日4月直近終値は6870円、直近で5786円とむしろ下げてしまっている。NTTデータは23年1月末は2003円、社名変更日7月直近終値が同じく2003円、直近でも2145円と微増にとどまっている。一方、LINEヤフーは23年一月末は371円、変更日10月直近終値は403円。直近では480円と1年前に比べると3割アップで、大手3社の中では唯一気を吐いている。
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